ちいさなせかい

春はひなたぼっこがきもちよかった。

そこで読書をして、お弁当を広げた。

わたしがいたら、近寄ってくれるともだちもいた。

まぶしいひかりは水面を反射させて目にとびこんでくる。

あかるい春がはじまるよ、

あたたかい風が吹いていた。

 

夏はじりじりと日差しは強く、

ビオトープは枯れてしまうこともあった。

それでも雨が降ると、

水がたまり、かえるたちはすいすい泳ぎ、うたう。

ザリガニはいつもわたしたちをおそるおそるのぞいていた。

 

秋は蒲の穂がゆれていた。

夕日がおちるころ、金色に輝くみなも。

やさしい風はどこまでも吹いて。

糸トンボが蒲の穂につかまっている。

かぼそい体で、風に負けてしまわぬように、

しっかりとつかまり、

また、はばたき。

 

冬はしんと静かなビオトープ

池のなかのいきものたちはひそひそとゆっくり動く。

つめたくて、ザリガニもあるいている。

おひさまがめったに出ないので、お弁当を広げるひともすくない。

知らぬ間に、枯れた蒲の穂はふわふわと大空へ舞ってゆく。

 

こどもだちがザリガニ採りをした。

池の中に落ちる子もいた。

それでも泣かなかった。

泥だらけになったその子は、

なぜかすっきりした顔をしていた。

 

水草をとりにくるひともいた。

蒲の穂であそぶひともいた。

どこからかとんでくる、桜の花びらが浮かぶビオトープ

紅葉する水草

そこにいるけれど、

目に見えない、ちいさなちいさないきものたち。

 

わたしたちの知らぬ間に、

生まれ、生きて、死んでゆく。

多くの営みがそこにあった。

 

長い長い年月を経て、

そこに多くのいのちの拠り所となった。

ながいながい月日があったから、今のビオトープがある。

 

わらいごえのひびくこと、

ときには、なみだをながす、

そんな場所。

 

 

そこに、大講義棟ができる。

学生が増えて、講義室が狭くなってしまったから。

 

それならば、学生を減らせばいいのに。

それならば、部屋を分ければいいのに。

 

それでもつくる価値があるのか。

 

どんなときだってわたしは、

それらの歴史、多くのいのち、自然の素肌のうえを生きていることを

わすれたくない。

 

 

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