雷様と1ぴきの動物
しろいそらからふってくるのは、雨
*
きのうの雨のかえりみち、
わたしは見てはいけないようなものを見た気がした。
ひとりぼっちで、それを見てしまった。
採石場のような場所は山の素肌、石がむき出しで、鋭い雨に打たれている。
絶壁からの土砂の滝、それは激しく下に向かって、川に落ちて流れる。
わたしは絶叫せずにはいられなかった。
悲しみのような怒りのようななにかがあふれてきて、
動物の私が吠えた。
ことばにならない、なにかを、唸り、叫んだ。
*
山に「痛かったよね」って言うし、
石に「さみしいよね」って言う。
暗い空に濡れた森の中で、1ぴきの動物はそう、したの。
大雨に打たれながら、
からだは冷えてゆく、
雹のような粒も降ってくる。
原付で、落石注意のみちを走り続ける。
だれかに「こわいよたすけて」を言いながら。
だれかに「ごめんなさい」を言いながら。
ほんとに人間は、か弱き、いきもの。
*
今日も雷様はだれかとおはなししている。
わたしたちはイヤホンなどをして、雨音も雷様の声も聴かずにいられる。
この、耳をふさいでいられる時代。
SNSなど、ひとごとを覗いて自分のことから目をそらすことのできる今。
わたしは、きのうの動物の声を、
ゆっくり、ゆっくり、にんげんのわかるようなことばにしてゆきたいし、
ことばにせざるをえない衝動にかられている。
雷に打たれた。
わたしは目をヒラキ、
今日もこの地に眠る。
だれもが守られ、生きている。
*
589